ケラスキャットは実在する?スコットランドの黒いUMAと博物館に残る標本

スコットランドの草地を歩く黒いケラスキャットの挿絵 海外のUMA

黒い毛に包まれた、野性味のあるネコ。

家のソファで丸くなる黒猫とは違い、森を歩くその姿には、どこか見慣れない雰囲気があります。

スコットランドのケラスキャットは、こうした黒いネコが標本として残った、少し珍しいUMAの話です。

不鮮明な写真から輪郭を探すだけでなく、博物館にある実物の姿を確かめられます。

では、怪物が本当に捕まったのでしょうか。

ケラスキャットと呼ばれるネコの標本は実在しますが、それは未知の新種が認定されたという意味ではありません。

交雑したヤマネコとイエネコとして説明される動物を、目撃談、標本写真、研究の順に見ていきます。

ケラスキャットとは?「黒い大型ネコ」と混同されやすいモレーの動物

水辺の林を歩くケラスキャットを描いた挿絵

名前のもとになったのは、スコットランド北東部モレー地方のケラスです。

ケラスキャットは、この地方の黒い野生状態のネコと結び付けて使われる名前です。

英語資料ではKellas cat、博物館の資料ではBlack Moray catという表記も見つかります。

黒い毛色だけで、ヒョウや新種とは判断できない

「スコットランドの黒い謎のネコ」と聞くと、森に潜む黒ヒョウを想像するかもしれません。

しかし、ケラスキャットの標本の話と、各地のヒョウほど大きなネコの目撃談は、そのまま同じ事件にはできません。

2011年、アバディーン大学の博物館展示へケラスキャットを選んだ作家Geoff Holderは、展示用に書いた解説を自身のサイトで公開しています。

そこでは、ケラスキャットをイエネコとスコットランドのヤマネコの交雑個体と説明し、外来の大型ネコそのものとは区別しています。

Holderは、一部の大型ネコの目撃にこの動物が関係したのではないかとも考えています。

ただし、これは個々の目撃を照合して決着させた結果ではなく、本人の推測です。

展示解説の執筆者による記録:Geoff Holder(2011)

噂から標本へ――1980年代の発見と、いま見られる実物写真

シダの茂みに立つケラスキャットの挿絵

1983年の射殺個体と1984年のわな個体は分けて読む

ケラスキャットの発見年には、1983年と1984年の両方が登場します。

ここは単純にどちらかを誤記とするより、別の個体の記録を区別したほうが分かりやすいところです。

自然観察家Mike Tomkiesの『Wildcats』は、Tomas Christieが1983年にケラス付近、ロッシー川の近くで撃った黒いネコを取り上げています。

同書は、その剥製がエルギン博物館に展示され、同定のためロンドンの自然史博物館へ提出された経緯を記しています。

資料:Mike Tomkies『Wildcats』(PDF)

一方、George M. Eberhartの事典は、1984年6月、グランタウン・オン・スペイ近くのRevack Lodgeでキツネ用のわなに掛かった黒い雄も紹介しています。

同じ項目に1983年個体の話もありますが、両者は別の記録です。

記録の比較:Eberhart『Mysterious Creatures』Kellas Cat項目

「1984年に最初の一匹が捕まった」とだけ要約すると、それ以前の個体が見えなくなります。

発見、射殺、標本の紹介が同じ年とは限らない点に、この話を追う面白さと難しさがあります。

アバディーン大学の標本写真――目撃写真とは別の資料

アバディーン大学動物学博物館のケラスキャット剥製を2015年に撮影した写真
アバディーン大学動物学博物館の標本。

写真:Sagaciousphil、2015年10月6日撮影。

原掲載/CC BY-SA 4.0(原画像の改変なし)

この写真は、撮影者がWikimedia Commonsに公開した博物館の剥製です。

黒い体毛、胸の淡い部分、顔つきや尾を確かめられます。

野外で生きている個体を撮影したものでも、1983年や1984年の捕獲現場の写真でもありません。

また、エルギン博物館の公式コレクション案内にもケラスキャットが掲載され、2025年の収集方針資料ではBlack Moray(Kellas)catが登録番号ELGNM 2013.2で挙げられています。

少なくとも、「実物はどこにもなく、写真だけが独り歩きしている存在」ではないことが分かります。

エルギン博物館の公式案内/2025年のコレクション方針(PDF、11ページ)

ケラスキャットの正体は?交雑という答えが、別の謎につながる

岩に座る黒いケラスキャットを描いた挿絵

「実在」と「新種の発見」は違う

標本があることは、黒いネコが現実にいたという強い手掛かりです。

一方、新種かどうかは、その標本を既知のネコと比較して判断する別の問題です。

博物館展示の解説では、ケラスキャットはヤマネコとイエネコの交雑として扱われています。

ただし、発見当初から全個体の判定がそろっていたわけではありません。

『Wildcats』に収録された1983年個体の検討では、黒いヤマネコという可能性に加え、大きな野生化イエネコや交雑も排除できないとされています。

「ケラスキャット」という呼び名だけで、どの標本も同じ検査を受け、同じ結論になったと考えるのは早計です。

黒い野生ネコの分類はその後も専門研究の対象となり、1992年にはKitchenerとEasterbeeによる論文が『Journal of Zoology』に掲載されています。

以下は研究書誌へのリンクです。

本記事では全文未確認のため、個体別の検査結果の根拠には使っていません。

研究書誌:「The taxonomic status of black wild felids in Scotland」(1992)

怪物探しの先にある、ヤマネコを守る研究

交雑という説明は、謎を味気なくするだけの答えではありません。

野生のヤマネコと、人間の暮らしに結び付いたイエネコが出会う環境を映す問題でもあります。

スコットランド国立博物館は、ヤマネコとイエネコの交雑を保全上の課題として紹介しています。

2023年に始まった野生復帰の取り組みも案内しており、不思議な黒猫の話は、現実の動物をどう残すかという問いにつながっています。

スコットランド国立博物館:在来動物とヤマネコの紹介

結論:標本は実在するが、未知の大型ネコの証明ではない

ケラスキャットは標本を確認できる黒いネコで、交雑個体として説明されている存在です。

「UMAが捕まった」という入口から読み始めるなら、その先にある「捕まった動物は何だったのか」まで追うと、この話はさらに面白くなります。

博物館の写真にいるのは、正体不明の影ではありません。

それでも、いつもの黒猫と同じと言い切りたくなるほど単純でもない。

見慣れた動物のすぐ隣に、野生と人の暮らしが交わる不思議な姿があったのです。

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