アウィツォトルの正体は?尾に手を持つアステカの水怪と絵文書の捕獲伝承

長い尾の先に手を持つ黒いアウィツォトルの想像図 海外のUMA

小さな犬ほどの黒い体に、とがった耳。

長い尾の先には、人のような手が付いている。

アステカの水怪アウィツォトルは、巨大な体で人を圧倒する怪物ではありません。

水辺へ近づいた人を、思いがけない方法で捕らえると語られた存在です。

子どもの泣き声に誘われる話もあれば、魚を目当てに近づいてしまう話もあります。

しかも、老女が捕まえたのに、偉い人たちから元の場所へ戻すよう命じられたという、奇妙な結末の伝承まで残っています。

アウィツォトルは、絵文書で姿と物語を確認できる水の怪物です。

カワウソとの関連も指摘されますが、特定の動物と確定した捕獲事件ではありません。

ここでは16世紀の『フィレンツェ絵文書』をたどり、伝承と動物学的な正体を分けて見ていきます。

アウィツォトルとは?犬のような体、猿のような足、尾の先の手

四本の足と手の付いた尾を持つアウィツォトルの挿絵

出どころは、ナワの人々も制作に関わった16世紀の絵文書

主な資料は、1577年に完成した『フィレンツェ絵文書』第11巻です。

宣教師ベルナルディーノ・デ・サアグンだけの著作と捉えるより、ナワの長老、著述者、絵師たちも関わった共同制作の史料として読むことが大切です。

Getty Research Instituteの公開サイトでは、原本画像と、ナワトル語・スペイン語の翻刻や翻訳を見比べられます。

水怪の記事は、第11巻70vから続きます。

Gettyによる絵文書の解説/第11巻70v:アウィツォトルの姿

一番奇妙なのは、獲物をつかむ尾

70vでは、小犬に似た大きさ、黒くなめらかな体、小さくとがった耳、長い尾が説明されています。

手足は猿などにたとえられ、尾の先には人の手に似たものがあると記されます。

暮らす場所は、深い泉や水の奥です。

次の71rでは、その尾で人をつかんで水中へ引き込む話になります。

水は泡立ち、魚やカエルが騒ぎ出す。

尾の手は見た目だけの飾りではなく、人を捕らえる仕組みとして描かれているのです。

第11巻71r:水中へ引き込む話

こうした描写を読むと、水面に見えるのは小さな動物でも、その下では何が起きるか分からないという怖さが伝わってきます。

山ほど大きな怪獣とは、恐れられ方が違います。

子どもの声で誘い、魚で足を止める――絵文書に残る三つの話

水面から手の付いた尾を出して泳ぐアウィツォトルの挿絵

魚が集まる水辺は、絶好の漁場とは限らない

72vでは、人を捕らえられないとき、アウィツォトルが魚やカエルを水面へ追い出すという話が登場します。

魚を見た漁師が近づき、網を入れると、今度は自分が捕らえられてしまいます。

漁をする人が、逆に獲物になる。

この逆転が、単なる水難の説明とは違う物語の怖さです。

魚がいるという魅力と、水に近づく危うさが、同じ場面に置かれています。

第11巻72v:魚やカエルで人を誘う話

泣いている子どもを探しに行くと

73rには、子どもが泣くような声を出し、人を水辺へ誘う話があります。

聞いた人は、そこに子どもがいると思って近づき、尾の手につかまれてしまいます。

魚の話が「獲物を得たい」という気持ちにつながるのに対し、こちらは泣く子を気に掛ける行動につながります。

強い力で追いかけるだけではなく、人の側から近づかせる怪物なのです。

なお、この描写は伝承の内容であり、現生動物が人間の幼児の声をまねると確認された記録ではありません。

老女は捕まえたのに、なぜ水辺へ戻したのか

同じ73rから73vにかけて、老女がこの動物を捕らえる話が続きます。

スペイン語欄では、水をくみに来た老女が動物を水がめに入れ、衣服でふたをして町の有力者たちに見せたと語られます。

ところが、人々は捕獲を喜びません。

動物は水神たちに属する存在だとして、捕まえた場所へ戻すよう命じます。

ナワトル語欄でも、神トラロックとの結び付きが示されています。

第11巻73r:泣き声と老女の捕獲/73v:元の場所へ戻す結末

この結末を読むと、アウィツォトルを単なる「退治すべき害獣」として扱えないことが分かります。

恐ろしい一方で、人の都合で持ち帰ってはいけない存在でもある。

物語の中では、水辺と人間のあいだに引かれた境界を担っているようにも読めます。

アウィツォトルの正体はカワウソ?絵と伝承から分かること

泉のそばで休む尾に手のあるアウィツォトルの挿絵

カワウソとの関連は、同定済みという意味ではない

Gettyが公開する70vのナワトル語英訳には、注記としてLutra felinaというカワウソの学名が挙げられています。

ただし、その注記には幻想的な特徴を持つ伝説の動物という説明も併記されています。

水にすむ毛皮のある小動物という点から、カワウソを連想する余地はあります。

しかし、それで尾の先の手や、魚を使った罠、水神との関係まで説明できたわけではありません。

翻訳の注記に動物名があることを、「DNA鑑定でカワウソと判明した」と読み替えてはいけません。

当時の絵は見られるが、目撃写真とは性格が異なる

原本の姿を見たい人は、上のGettyの各ページで、文章の横に表示される絵文書画像を確認できます。

現代の想像図を何枚も見比べるより、当時の文章と絵を一緒に読むと、どこからイメージが来たのかを追いやすくなります。

今回調べた資料で中心になったのは、16世紀の伝承を伝える絵文書です。

撮影者・日時・現場を追跡できる現代の目撃写真や、動物として同定できる捕獲標本は確認できませんでした。

老女の話も「捕獲成功のニュース」ではなく、この史料に書かれた伝承として紹介しています。

結論:正体が確定したUMAではなく、水辺の恐怖と信仰を伝える怪物

アウィツォトルの正体を、特定の現生動物と断定できる証拠は今回の資料では得られていません。

カワウソとの関連はありますが、確認できるのは、尾の手や泣き声を持つ水怪が16世紀の絵文書で詳しく語られていることです。

小さな犬に見えるものが、なぜ水辺では人をさらうのか。

捕まえたはずなのに、なぜ持ち帰ってはいけないのか。

その疑問を追うと、未知の動物探しとは別の深さで、水の向こうに何かがいると感じた人々の世界が見えてきます。

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