背中から腰にかけて黒い縞が並び、長い尾をまっすぐ後ろへ伸ばした動物。
犬に似ているのに、どこか見慣れない姿をしているのが、タスマニアタイガーです。
湖の怪物や伝説の獣と違い、この動物は確かに実在しました。
標本だけでなく、動いている映像も残っています。
では、絶滅したとされる今も、タスマニアの森のどこかにいるのでしょうか。
現在の生存は確認されていませんが、最後の飼育個体が死んだ1936年と、野生個体が本当にいなくなった時期は、同じとは限りません。
そのずれを調べる研究と、絶滅後に寄せられた目撃報告が、生存説を考える手掛かりになります。
タスマニアタイガーとは?犬に似た姿をした「トラではない動物」

名前はタイガー、分類は有袋類
タスマニアタイガーは、フクロオオカミ、サイラシンとも呼ばれる肉食の有袋類です。
トラの仲間でも、オオカミの仲間でもありません。
タスマニア州の公園・野生生物当局は、大きくなると鼻先から尾の先まで約180センチ、肩の高さは約58センチと説明しています。
犬のような長い体に、重く硬い尾と暗い縞模様があるのが特徴です。
姿と生態:Parks & Wildlife Service Tasmaniaの解説
この形を知ってから記録映像を見ると、「縞のある犬」で済ませられない独特の輪郭が気になってきます。
一方、今の目撃情報を評価する際には、縞があったという一点だけでなく、尾や頭、体の比率まで確かめたいところです。
なぜ、いなくなってしまったのか
オーストラリア国立博物館は、狩猟や捕獲に加え、生息地の破壊などが急減に関わったと説明しています。
タスマニア政府は1888〜1909年に駆除の報奨金制度を設け、2,180件を超える支払いが行われました。
人間の側が、この動物を減らすために力を注いでいた時代があったのです。
出典:オーストラリア国立博物館「Extinction of thylacine」
伝説の怪物を見つけたいという気持ちとは少し違い、生存説には、失った動物にもう一度会えるかもしれないという願いも重なります。
ただ、その願いだけで、目撃された動物の種類を決めることはできません。
絶滅後の目撃情報はある?道路に出てきた縞の動物

1982年の報告も、その後の捜索につながった
タスマニア大学の歴史解説は、1982年に信頼性があると評価された目撃があったことに触れています。
しかし、続く捜索では、生存を裏付ける写真などの証拠を得られなかったとしています。
有力そうな話が出た後、実際に探してみたらどうだったのか。
生存説では、目撃の瞬間だけでなく、その後の経過も重要になります。
2018年1月、コリナ付近で12〜15秒見えたという報告
より具体的な目撃内容を読めるのが、タスマニア州当局が情報公開した2016〜2019年の報告一覧です。
その中の一件では、2018年1月21日午後3時半ごろ、コリナの渡し船を降りて走っていた旅行者が、道路へ出てきた動物を見たと述べています。
運転者は車を止め、動物は道路の途中から車を見て、来た方向へ戻ったといいます。
観察時間は12〜15秒ほどで、背中の縞と、付け根が太く硬そうな尾が報告されています。
この内容が当局に報告された日は、同年2月25日です。
「最近見つかったらしい」という噂より、場所、動き、見えた時間まで分かると、どこを調べればよいかが具体的になります。
ただし、この表は寄せられた報告の公開であって、州がフクロオオカミを再発見したと認定した一覧ではありません。
目撃日と報告日を分けると、時間のずれが見える
この一件だけでも、目撃から報告まで約一か月あります。
資料の表の左端の日付だけを拾うと、実際に見た日を取り違えてしまいます。
どんな動物だったかを考える以前に、出来事の日時を正しくそろえることが、生存説を読み解く最初の一歩です。
本物の映像は残っている?1935年の記録と「新発見」の意味

動物園で撮られた、実在の個体を見られる
オーストラリア国立映像音響資料館NFSAは、1935年の旅行映画『Tasmania the Wonderland』に含まれる約21秒の映像を、2020年に紹介しました。
ホバートのボーマリス動物園で飼育されていた個体が映っています。
これは生存説を題材にした再現映像ではなく、当時の動物を撮った記録です。
映像資料:1935年『Tasmania the Wonderland』/NFSA所蔵映像の公開複製(Wikimedia Commonsの来歴・利用条件)
再生できない場合:NFSAの映像掲載ページを開く
2020年に見つかったのは、野生の個体ではなく古い映像
「新しい映像が発見された」というニュースを、2020年に生きた個体が撮影された話と取り違えないようにしてください。
撮影年は1935年、再発見されて紹介された年は2020年です。
この映像が教えてくれるのは、かつての体つきや動きであり、現在の森にいるかどうかではありません。
それでも、動く姿が残ることには大きな意味があります。
想像だけで作った怪物像ではなく、目撃報告と比較するための実物の記録があるからです。
最後に確認された個体が死んだのは1936年9月7日
国立博物館は、最後に知られる飼育個体がホバートで1936年9月7日に死亡したとしています。
保護対象になってから、わずか59日後でした。
同館の現在の解説では、継続的な生存を示す決定的な証拠はなく、1986年から公式に絶滅した動物とされていると説明しています。
ただし、飼育個体の死亡は日付を記録できても、人の目に触れない野生個体が最後に死んだ日を、同じ精度で知ることはできません。
ここから、研究者の別の問いが始まります。
まだ生きている可能性は?2023年の研究が推定した絶滅時期

1,237件の記録から「最後の時期」を推定
タスマニア大学が2023年に紹介した研究では、1910年以降の1,237件の観察記録を使い、分布の縮小と絶滅時期が分析されました。
大学の説明では、主な推定は1940〜1970年代ですが、不確実性を考慮した別の分析では、1980年代後半〜2000年代初めという可能性も示されています。
研究紹介:タスマニア大学の2023年の発表
これは生きた個体を見つけた研究ではなく、残された記録から絶滅の時期を推定した研究です。
なぜ、推定した年に幅が出るのか
最後に捕獲された年と、本当に最後の一頭がいなくなった年は、必ず一致するとは限りません。
一方、目撃報告をすべて確実な観察として数えれば、見間違いの報告によって、生存期間を長く見積もるおそれもあります。
どの記録をどの程度信頼するか、不確実な部分をどう扱うかが、推定の結果に関わります。
ここが、「目撃が多いからまだいる」という単純な話との違いです。
生存説と復活研究は、別の話
タスマニアタイガーをめぐっては、遺伝情報を使った復活研究も話題になります。
しかし、野生に今も残っているかという問いと、技術で取り戻せるかという問いは別です。
復活を目指す計画があることを、現在の野生個体が発見された根拠にはできません。
結論:現在の生存は未確認、1936年以降に残っていた可能性は研究対象
タスマニアタイガーが今も生きていると確認されたわけではありません。
一方、野生個体の絶滅時期を1936年の一日で区切れるわけでもなく、後年まで残っていた可能性が研究されています。
次の発見があるとすれば、昔の映像の再公開なのか、既存の目撃資料の再評価なのか、それとも本当に新しい野生の証拠なのか。
その違いを見分けながら追うことで、この動物をめぐるニュースはずっと興味深く読めます。
「もういない」とされる動物の動く姿を見られること自体、ほかのUMAにはない、心を引かれる入口です。


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