もし森の木が一本、不自然に曲がっていたら、その陰で巨大な動物が眠っていたのかもしれない。
ヒューガッグは、脚の関節がなく、木に寄りかからなければ休めないと語られる北米の怪獣です。
ヘラジカほどの体に、長すぎる上唇。
立派な巨体なのに、横になることも草を食べることも苦手です。
正体をたどると、1910年と1939年の木こりの怪物譚に行き着きます。
捕獲された未知動物というより、体の不自由さから奇妙な習性が広がっていく物語として記録されています。
ヒューガッグの姿|脚が曲がらず、上唇が長すぎる巨獣

草を食べようとすると、自分の唇を踏む
ウィリアム・T・コックスの『Fearsome Creatures of the Lumberwoods』(1910年)は、ヒューガッグのいる土地を、ウィスコンシン州西部、ミネソタ州北部からカナダのハドソン湾方面へ続く地域としています。
見た目の比較対象はヘラジカですが、頭と首には毛がなく、革のような皮膚をしています。
耳はしわが寄って垂れ、体には長い毛、足には四本の指、後ろにはふさふさした尾があります。
とくに厄介なのが、だらりと垂れた上唇です。
草を食べようと頭を下げれば、自分の唇を踏んでしまうといいます。
そこで小枝を食べたり、唇を木に巻き付けて樹皮をはがしたりして暮らす、という説明につながります。
眠るために一本の木が必要になる
脚は長くても、曲げる関節がありません。
日中は歩き続け、夜になると、木に体を預けて眠るとされます。
大きな獣にとって、一本の木が寝床の代わりになるわけです。
原文では後ろ脚を踏ん張り、前脚では足踏みするような姿まで描かれます。
物語の猟師は、この習性を利用します。
あらかじめ木に切れ込みを入れておけば、体重をかけたときに木ごと倒れ、獣は立ち上がれなくなる。
強そうな姿と、眠るだけでも困ってしまう弱点が対になっています。
1910年の捕獲譚と挿絵|タートル川の若い個体

1800ポンドの幼獣を倒したという話
1910年の本には、ミネソタ州北部のタートル川で、若いヒューガッグが泥にはまっていたという話が載っています。
キャスレイクのマイク・フリンという人物が倒した、と続きます。
若い個体なのに体重は1800ポンド、換算すると約820キログラムです。
数字と地名と人物名がそろうため、短い文章でも、ニュースのような手触りがあります。
ただし、原文は捕獲年を示していません。
1910年は本の刊行年であり、この出来事が起きた年と決めることはできません。
標本の収蔵先や計測記録も、この章には付いていません。
当時の絵には、何が描かれているか
上の図版は、コート・デュボアによる1910年の挿絵を用いた掲載画像です。
長い唇や脚など、文章で語られる奇妙さを、動物の姿として確かめられます。
これは捕獲個体を写した写真ではなく、怪物譚の姿を知るための図版です。
本の序文では、コックス自身が、木こりたちの想像から生まれた動物を文章と絵で残すことを目的に掲げています。
出典:原典・掲載資料を読む
1939年には松葉の体に?ヒューガッグの正体を追う

毛皮から松葉へ、変わった姿
ヘンリー・H・トライオンの『Fearsome Critters』(1939年)を読むと、同じ名の怪物が少し違って見えてきます。
高さは約13フィート、約4メートルとされ、毛の代わりに松葉をまといます。
松の節を食べるため、体から樹脂がにじみ出すという設定まであります。
一方で、曲がらない脚と、木に寄りかかる眠り方は残っています。
1910年版の毛むくじゃらの体と1939年版の松葉の体を、無理に一頭の特徴へ合成する必要はありません。
語り直す人や本によって、怪物の姿が変わっていく例として見るほうが面白く読めます。
結論:曲がらない脚から広がる木こりの物語
結論:ヒューガッグは、曲がらない脚と長い上唇を持つ、北米の木こりの怪物譚に記録された存在です。
今回の原典から、未知動物の捕獲や実在が確認されたとは言えません。
それでも、木に寄りかかる、倒れたら起きられない、唇のせいで草を食べられない、という話は一つにつながっています。
体に一つ不思議な条件を加えるだけで、食事も睡眠も猟師の知恵も変わってしまう。
そこにヒューガッグの独特な魅力があります。
出典:原典・掲載資料を読む


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