ニューネッシーの正体はウバザメ?瑞洋丸が引き上げた死骸の謎

ニューネッシーの正体とウバザメ説を紹介するイラスト 海のUMA

小さな頭に、長く垂れ下がった首。船上につり上げられた姿は、たしかにサメよりも首長竜を思わせます。

1977年、日本の漁船・瑞洋丸がニュージーランド沖で引き上げた巨大な死骸。「ニューネッシー」と呼ばれるようになった、この生き物の正体は何だったのでしょうか。

有力なのは、腐敗したウバザメという説明です。 フロリダ自然史博物館も、当時の写真をウバザメの死骸として紹介しています。ただし、写真を見て「サメに似ている」と判断しただけではありません。死骸から持ち帰った繊維を調べた研究も残っています。フロリダ自然史博物館の解説

では、なぜサメが首長竜のように見えたのか。写真と1978年の分析論文をたどると、この事件の見え方が変わります。

ニューネッシーとは?瑞洋丸が遭遇した約10メートルの死骸

海上のトロール船を描いたイラスト
海上のトロール船のイメージ

事件が起きたのは、1977年4月25日。大洋漁業のトロール船「瑞洋丸」が、ニュージーランドのクライストチャーチ沖で、全長約10メートルと報告された死骸を引き上げました。

しかし、死骸そのものは日本へ運ばれていません。腐敗した物質で漁獲物が汚染されることを恐れ、海へ戻されたからです。

その前に乗組員の矢野道彦氏が採取したのが、ヒレから伸びるひげのような繊維でした。この小さな試料が、後の分析につながります。木村らの論文、p.67

ここを押さえると、事件の重要な制約が分かります。研究者が調べられたのは、完全な死骸ではなく、写真や記録、持ち帰られた一部の試料でした。

写真はどこで見られる?

当時の写真は、フロリダ自然史博物館のウバザメ解説で確認できます。写真には矢野氏の撮影であることが明記されています。

また、小畠・富田の論文の冒頭図版には、船上で撮られた複数の写真が載っています。

一枚だけを眺めるより、つり下げられた姿と甲板上の姿を見比べてみてください。「首」や「ヒレ」だと思った部分が、別の角度ではどう見えるか。正体を考えるときの出発点になります。

ウバザメ説が有力な理由は、写真だけではない

顕微鏡と繊維を描いた分析のイメージ
繊維分析のイメージ

ウバザメは、プランクトンをろ過して食べる大型のサメです。ニュージーランドの自然保護局も周辺海域での記録を紹介しており、この地域にはいない動物を無理に候補へ持ち出したわけではありません。ニュージーランド自然保護局の解説

ニューネッシーをウバザメと考える根拠は、大きく分けて「姿の説明」と「繊維の分析」です。

長い首は、腐敗で失われた部分がつくった?

生きたサメの姿を思い浮かべると、ニューネッシーの細い首は不自然です。しかし、比べる相手は生きたサメではなく、体の一部を失った死骸です。

大村らの1978年の論文は、腐敗によって顎や鰓を支える構造が外れると、小さな頭と長い首を持つような外見になると説明しています。

つまり、首が新しく伸びたのではなく、周囲が失われて細い部分が目立つようになったという見方です。同論文には、別種のサメで顎と鰓の骨格を取り除いた比較図もあります。これは瑞洋丸の死骸そのものの解剖写真ではありません。大村らの論文、pp.58–60

「サメなら、もっとサメらしく見えるはず」という印象だけでは、腐敗した姿を判断しにくい理由がここにあります。

持ち帰った「ひげ状の繊維」は何だったのか

木村らが分析したのは、採取された繊維のうち2片です。電子顕微鏡による観察や、加熱したときの変化、アミノ酸組成などを、ウバザメのヒレの繊維と比較しました。

そこで注目されたのが「エラストイジン」という、サメ類のヒレにあるコラーゲン性の繊維です。研究者らは分析結果を合わせ、死骸がウバザメ、またはそれに近い種だったことを強く示唆すると結論づけています。木村らの論文、pp.67–74

「ひげ状」というのは見た目の説明で、口元に生えるひげを採ったという意味ではありません。また、この研究はDNA鑑定ではなく、繊維の構造や化学的な性質を調べたものです。

では、首長竜説は何を根拠にしていた?

首長竜を題材にした想像イラスト
首長竜の想像イラスト

小さな頭、長い首、ヒレのような部分。写真から首長竜を連想するのは、分からない話ではありません。

ただ、似て見えることと、骨格の特徴が一致することは別です。とくに気を付けたいのが、事件を紹介するときに使われるスケッチの扱いです。

スケッチは、完全な骨格を写した図ではない

大村らは、スケッチに描かれたヒレ内部の骨について、実物の骨を露出させて数えたものではなく、触れた感覚から補われた部分があると指摘しています。椎骨の形や数にも、実際の観察に基づかない点があるとしています。大村らの論文、p.56

これは「スケッチは無価値」という意味ではありません。見たものを残した記録として役立つ一方、解剖して確認した骨格図と同じ精度では読めない、ということです。

図に骨が描かれているから、その形の骨がすべて確認されたはずだ。そう受け取ると、記録が示す範囲を超えてしまいます。

当時の研究者も、全員が同じ結論ではなかった

化石動物との比較を行った小畠・富田は、サメ説が一般的であることに触れながらも、死骸の同定には留保を残しました。ただし、首長竜の特定の種だと結論づけたわけでもありません。既知のどの属・種に合うのか分からない、と記しています。小畠・富田の論文、pp.53–54

当時の論文には意見の違いがある。それは確かです。しかし、「サメと断定しなかった研究者がいる」ことを、そのまま「首長竜だと証明された」に置き換えることはできません。

ニューネッシーは未解明?分かっていることを整理

写真・記録・試料を照合するイメージ
資料を照合するイメージ

「正体はウバザメ」で話を終えると、どう調べたのかが抜け落ちます。反対に「死骸がないので何も分からない」とするのも、残された研究を無視してしまいます。

資料を読むときは、次のように分けると整理しやすくなります。

残された資料 手掛かりになること それだけでは言えないこと
写真 死骸の外形を比較できる 内部の骨格まで確認できるわけではない
スケッチ・観察の記録 現場でどう見えたかを知る材料になる 描かれた部分すべてが直接確認されたとは限らない
採取した繊維の分析 サメ類、とくにウバザメに近いという判断を支える 死骸全体を調べた検査ではない

この表は、上記の1978年の3論文を基にした整理です。資料ごとに得意なことと限界があり、一つですべてを説明できるわけではありません。

ウバザメ説には具体的な分析結果がある。一方、首長竜だったと確認できる証拠は、この記事で確認した資料にはない。 この二つは、両立します。

完全な死骸を再検査できないことは、検証上の制約です。しかし、その空白だけを理由に、ウバザメ説と首長竜説を同じくらい有力と扱うこともできません。

まとめ:写真の向こうに、正体を探る手掛かりが残っていた

海中を泳ぐウバザメのイラスト

ニューネッシーの正体を考えるなら、ウバザメ説が有力です。首長竜を思わせる外見だけでなく、腐敗したサメの形態や、持ち帰った繊維の分析まで合わせて見る必要があります。

「結局、サメだったのか」と感じるかもしれません。それでも、生きているときには見慣れた動物の仲間が、海で姿を変え、人々にまったく違う生き物を想像させたと考えると、この写真は別の意味で不思議です。

写真には何が写っているのか。どこまでが観察で、どこからが想像なのか。ニューネッシーは、その境目をたどれるUMA事件です。

参考資料・この記事の確認範囲

1978年の日仏海洋学会の論文集に収められた以下の3論文を、公開複製で確認しました。論文集全体や、すべての後続研究を網羅した記事ではありません。ページ番号は各論文の印刷ページです。

資料確認日:2026年9月26日。

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