森の川沿いを飛ぶ、大きな翼の生き物。
顔は猿のように平たく、灰色の毛に覆われ、地面では翼を畳んで座るという。
アフールは、インドネシアのジャワ島西部で語られてきた、コウモリに似たUMAです。
その名は、夜に響く「アフール」という声に結び付けられています。
姿が見えなくても、頭上から聞こえた声が川下へ遠ざかっていく。
そんな体験が、この生き物の話を支えてきました。
正体は確認されていません。
ただし有名な記録を読むと、「声を聞いた人」と「姿を見たという人」は同じではありません。
原誌に戻って、その違いから見ていきます。
アフールとは?滝と川に結び付いた「空飛ぶ猿」の姿

翼を広げると約3.7mという話
動物学者カール・シュカーの2018年の記事では、アフールは猿のような顔、幼児ほどの胴体、12フィートほどの翼開長を持つ存在として紹介されています。
12フィートは約3.7mです。
これは捕獲個体を測った値ではなく、伝えられる大きさ。
それでも、川沿いの暗がりでそんな翼が開いたら何に見えるのか、想像を誘う特徴です。
魚を食べることや、足が後ろ向きに見えることも、この怪物像に含まれています。
大きいだけのコウモリではなく、顔や足、川との関係まで語られているのがアフールの面白いところです。
幽霊の話と、動物の話が隣り合う
エルンスト・バルテルスが1966年に発表した回想には、幼いころ、アフールを女性の幽霊のように聞かされたというくだりもあります。
若い男を滝へ連れていく存在として語られたのです。
最初から全員が「未発見のコウモリ」という説明を共有していたわけではありません。
土地の恐ろしい話と、森の生き物についての観察が、同じ名前の周囲に集まっています。
1927年のバルテルス体験|本人は何を見聞きしたのか

寝床の頭上から、川下へ移った声
『Fate』1966年7月号の「The One True Batman」は、バルテルス本人の語りから始まります。
執筆名義は、エルンスト・バルテルスとアイヴァン・T・サンダーソンです。
1927年、ジャワ島のチジェンコル川近く。
午後11時半ごろ、寝床にいたバルテルスは頭上から声を聞き、懐中電灯を手に外へ出たと書いています。
声は三度聞こえ、最後は川下の遠い場所から届いたという記述です。
この場面に、本人が巨大な翼を目で確認したという描写はありません。
1925年の姿の話は、別の人物の体験
同じ記事には、助手パキのいとこである猟師が、1925年に川を渡った後、前方約50フィートの道に降りた生き物を見たという話も出てきます。
50フィートは約15mです。
相手は翼を畳んで座り、やがて飛び去ったとされます。
こちらはバルテルス自身の目撃ではなく、パキを介して伝えられた話です。
本人の聴覚体験に別人の視覚体験を重ねると、「バルテルスが1927年に巨大なコウモリを見た」という別の話ができてしまいます。
原誌では、そこを分けて読めます。
当時の絵は見られるが、目撃写真とは違う
記事の冒頭、印刷83ページには、翼のある生き物の挿絵が載っています。
当時の読者がどんな姿を思い浮かべたのかを知る資料ですが、1927年の現場写真ではありません。
『Fate』1966年7月号の原誌を読む(PDF・83〜92ページ、約51MB)
今回確認した資料からは、アフールと同定された動物の目撃写真や、声の録音は紹介できませんでした。
巨大コウモリかフクロウか?写真と正体候補を読み分ける

本物のオオコウモリは、どのくらい大きい?
実在するジャワオオコウモリ(Pteropus vampyrus)も、十分に大きな翼を持っています。
クンツとジョーンズの2000年の種解説では、翼開長はおよそ1.3〜1.5mとされます。
同じ解説は、顔を犬やキツネに似た形として紹介しています。
伝承の約3.7mや平たい猿顔とは、そのまま一致しません。
夜に大きな翼を見たという部分は比較できても、それだけでアフールの正体を決められるわけではありません。
目撃時の距離や大きさの見積もりにも不確かな点が残ります。
フクロウという案は原誌にも出てくる
バルテルスは、猟師の話に対して大きなフクロウではないかと考えたことも記しています。
ただ、伝え手はその説明に納得しませんでした。
翼を畳んで立つ姿を比較する案ではあっても、実物を検査して出した結論ではありません。
「見慣れた鳥とは違う」という証言も、未知の種を確定する資料とは分けて扱います。
ネットの巨大コウモリ写真を、アフールに置き換えない
シュカーは2018年の記事で、コウモリを人よりカメラに近い位置で持つことで、非常に大きく見える写真を取り上げています。
写真に写るコウモリが実在していても、それがジャワ島のアフールを撮った証拠になるとは限りません。
巨大コウモリ写真とアフールを扱う解説を見る(2018年7月29日)
結論:正体は未確認、鳴き声の記録と目撃談を混ぜない
アフールは未知の巨大コウモリだと確認された動物ではありません。
オオコウモリやフクロウは比較候補になりますが、今回確認した記録では特定に至っていません。
1927年のバルテルスの話は声の体験で、姿を描く材料は別の人々の話から来ています。
あの夜、川下へ遠ざかった声の主は何だったのか。
見えていない翼まで見たことにせず読むと、アフールの謎はむしろはっきりします。


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