山の奥に、人間に似ているのに毛深く、集落とは距離を置いて暮らすものがいる。
アルマス、あるいはアルマスティの名で語られる存在は、そんな「もう一つの人類」を想像させる獣人伝説です。
なかでもザナという女性の話は、古代人の生き残り説と結びつけられてきました。
しかし、ザナに関するゲノム研究は未知の獣人や古代人の発見ではなく、現生人類の女性であったことを示しています。
アルマスとは?一つの動物名にまとめにくい獣人伝説

アルマスの話は中央アジアやコーカサスの獣人譚と関連づけて紹介されます。
人に似た輪郭、毛深い体、山野での暮らしという特徴から、イエティやビッグフットと並べられることもあります。
ただし、地域や呼び名の異なる話を、同じ生物の連続した目撃記録だと決めつけることはできません。
とくに、人の生活や来歴をめぐる伝聞が、後から獣人の証拠に読み替えられている場合は注意が必要です。
ザナの物語が広げた古代人説
19世紀のアブハジアにいたとされるザナは、毛深い外見や行動についての後世の語りによって、アルマスティと結びつけられました。
ここで検証できる対象は、伝承上の生き物全体ではなく、ザナとされる遺骨や、その家族関係です。
一人の人物についての研究を、「山にいるすべての獣人の謎を解いた」と広げることも、逆に結果を無視して怪物扱いを続けることも適切ではありません。
ザナのDNA研究は、何を調べたのか

2021年に公表されたMargaryanらの論文『The genomic origin of Zana of Abkhazia』は、ザナと息子クウィトに関わる遺伝情報を分析しています。
書誌と要旨はPubMedの論文情報でもたどれます。
研究では両者の親子関係を支持する結果が得られ、ザナについてはアフリカ系の祖先を持つ現生人類として説明されました。
これは「人に近い別種がいた」という結論ではありません。
分かったのは遺伝的な来歴で、人生のすべてではない
遺伝情報から祖先との関係を調べることと、本人がどのような経緯でその土地に来て、どう扱われたかを完全に復元することは違います。
ザナにまつわる語りには、後世の聞き取りに依存する部分があります。
外見をめぐる説明として病的な多毛を考える議論があっても、それを確定した診断や本人の生活史と同じようには扱えません。
遺伝学の結論を越えて、声や心理、能力を想像で書き足さないことが大切です。
古代人説と写真——何を証拠として扱えるのか

古代人の生き残りという説は、毛深い人型の姿に一つの説明を与えます。
しかし、見た目が想像上の古代人に似ていることだけでは、系統関係は分かりません。
ザナの例では、形の印象よりも遺伝情報を使って仮説を確かめることができました。
その結果に反して、ザナを「捕獲された獣人の実例」と紹介するのは不正確です。
伝承の挿絵と、実在した人を混同しない
アルマスの挿絵は伝承の姿を想像するためのもので、ザナの容貌を復元したものではありません。
本記事では、出所が確認できない人物写真を本人として掲載したり、毛深い人物をUMAの証拠に用いたりはしていません。
研究の対象になった人を、怪物の物語を盛り上げる道具にしてしまわないためです。
結論:ザナは古代人説の証拠にならない
アルマスという広い伝承の正体を、一件の研究だけで一括して説明することはできません。
ただし、ザナに関する問いには、現生人類の女性であって未知の獣人ではない、という明確な回答があります。
「人間に似た何か」を探していた話が、実際には一人の人間をどう語ってきたかという問いへ変わるところに、この事例の重要さがあります。


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